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『電脳六区』に戻る
あ-ら-す-じ
R25L23とは2143年に規定された情報端末規格。
だが一般に知られることはまずない。
また、基準法の内、情報に関する規定(Rate)が25箇条、法律(Law)が23条ある事から、
法律マニアの間では、基準法の内情報に関する項目のことの総称としても用いられるーーー。
序章:始まりもしくは限りなき終末に近い段階
[Prologue:beginning, or a nearest stage from the end]
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
<機動確認・・・>
真っ白な世界が広がる。それは何者にも汚染されない無機質な機構。
その中心にある筐体に向く男が一人。
黒い潜入服のような密着質を着込んだ男は、熱心に打鍵している。
眼前には黒い画面を白い文字が侵食していた。
その速度は凄まじく、打鍵する男の掌が透けて見えるほどだ。
もっともそれは透明度98%を誇るVT社が売り込んだ装備の性だ。
この二次元で透明度は役立たないという指摘もある品である。
二次元だからといってドット絵を思い浮かべる上司にしてみれば、
いわばステルス迷彩が現実になったようなものだ。
しかし監視の基準が侵入者が視界に入るかどうかが問題の時代ではなくなった現在、無用のものといえる。
つまり透明度98%はただの付加価値ということだ。
黒い画面にある文字が浮かんだあと、『VEN-TELL。』という妙に洒落た文字が表示された。
その後、白い画面に変った後、沈黙した。
残されたのは白い画面に映る球体が被写体の写真。
それは、時代遅れのような電磁投射砲のようなものを搭載し、黒く塗装されている。
『完璧な球体。』。
男はそれを視認すると、軽く打鍵した後、通信画面を呼び出した。
i324:『境界《きょうかい》へ侵入しました、どうぞ。』
mADM:『i324、了解。再びアクセスポイントへの通信開始。』
i324:『通信開始します・・・。』
再び激しく打鍵を始める。
この作業は先月から鍛錬してきたもので、間違えるはずがなかった。
そう。
だから画面が赤くなることなどは試作施行にはなかった。
舌打ちをする。
焦りが込み上げるのを抑止しながら、再び通信画面を呼び出す。
回線は幾らか制限されたが、なんとか繋げることが出来た。
なぜならここでの通信は予定にはないものだから。
回線が開くのに先ほどより時間がかかる。
しばしの間が過ぎ、開く。
i324:『通信失敗、妨害されました。』
mADM:『i324、リトライお願いします。』
ーーー今のままだと、また失敗する。
そう確信すると、通信画面を切らずに発信する。
i324:『蜘蛛《バグ》 、お願いします。』
mADM:『OP.《オペレーター》、i324へ蜘蛛転送、許可願います・・・。』
本来、蜘蛛《バグ》 は違法である。
しかし、法を管理する者の許可を得れば違法ではなくなる。
法治国家の矛盾はここにある。
mADM:『ジャッジ、得ました。i324、転送します』
i324:『蜘蛛《バグ》 受信しました。使用許可願います。』
mADM:『OP.《オペレーター》、蜘《バ》蛛《グ》 使用、許可願います・・・。』
mADM:『ジャッジ、得ました。i324、どうぞ』
i324:『了解。展開します。』
蜘蛛のドット絵が画面一杯に広がる。それは八足を伸ばした奇獣だった。
そして、億千ものサーバーを同時に攻撃する。
攻撃されたサーバーに増援を送るために四苦八苦のメインコンピュータはその間手薄になる。
そこを突くのが、彼の仕事だ。
このバグの欠点は、見つかってしまうことだ。
もし相手にも専門家がいるなら、少数精鋭をメインコンピュータに待機させているはずだ。
しかし、少数精鋭だけでは彼を倒せない。
i324:『通信突破しました。監視、飛んできます。』
mADM:『了解。開戦を開始してください。』
打鍵の速さが加速する。
幾ら機会によって補助されているとはいえ、その速度は異常だ。
一瞬のうちに気配が消え、そこには残骸しか残らない。
i324:『メインコンピューターに侵入しました。』
mADM:『了解。・・・退却してください。』
i324:『・・・は?。』
mADM:『任務を達成しました。退却してください。』
i324:『・・・・・・?。』
異常発生か。
それは一番危惧されることである。しかし、その時には肉声による通信が入ることとなっている。
抑止していた焦りが噴出す。
幾ら細胞単位で管理されているとはいえ、増えすぎた水は堤防を決壊させるものだ。
肉声通信は入らない。
撤退するべきか否か。
現場の判断が第一である潜入任務に於いて、それは不問の問いだった。
i324:『メインコンピューターに侵入します。』
mADM:『i324、停止してください。』
構わない。
停止信号を振り切って打鍵を開始する。
通常命令違反を行った場合、鍵盤が施錠されるものだが、事前に改造してある彼の鍵盤は例外だった。
特別仕様の鍵盤から指へと電流が流れ、指先が刺激される。
それによって得られる加速は、機械の補助より強力だ。結局、人間を従わせるのは痛みでしかない。
しかし、その電流は幾らか強力に思えた。
指先が震える。武者震い?いや、これはーーー
その瞬間、男、小此木雅人の意識は消失した。
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