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あらすじっ!

蝋で翼を固めた英雄を模す学生。

彼は何から逃げようとしているのか。






そのいちっ!


二学期が始まった。
銀杏並木(もっともまだ黄色い葉たちを散らせてはいないが)の通路を歩き、そして坂を上ると見えるのが、我が母校・私立時雨坂学園だ。
中高一貫校を中心に創立されたその学園は、現在大学・高校・中学・小学校、そして幼稚園を兼ね備える巨大施設になっている。
・・・・・・まったく、幼少の頃からスパルタ教育を施そうというのか、あのジジィ。
 通学路を通り抜ける僕を追いかける足音が聞こえた。
もう、この音も毎朝の恒例行事になっている。
「おーい、カミサマーっ!」
・・・・・・いいかげん、その呼び方はよしてほしいんだが。
ちなみにカミサマ、とは僕の名前が弐神様士郎(にがみ・ようしろう)で、
苗字の最後の文字『神』と名前の最初の文字『様』をあわせると、カミサマの完成だ。
 呼びかけてきたのは、僕の小学校来の親友、というか悪友の新谷誠である。
短い髪の毛に、体育会系の容姿。
だが、その風貌に似合わず、手先が器用で、美術部に入っている。
そのため、所属クラブを聞かれて『美術部』と答えると、相手は必ず聞きなおしてくる。
一年のときはそれで心を痛めていたらしい。
意外と繊細な奴だ。最近は大丈夫なようだが。
だが、力のほうは、運動部より強いらしい。
「おお、誠か」とおおげさに驚いてみるが、 「さすがに三百六回目になると飽きるな」
ちらりと本音をのぞかせる。
「誰が?」誠が聞き返す。
「俺が」
まぁね、と誠も笑っている。数えている僕も僕だが・・・。
「とりあえず、おまえ、遅刻だぞ」
そういいながら、ダッシュし始める誠。
腕時計を確認すると、始業チャイム20秒前っ!
「それは、まずいなッ・・・!」
ちなみに僕は足が速いほうだ。百メートル七秒台だったりして。
下駄箱に走りこむ。急いでロッカーをあけ、ローファーを突っ込み、上履きを引き出す。
すると合図をしたかのようにチャイムが鳴り始める。
三階まで駆け上がる。そして、一番向こうの教室までダッシュする。
そしてチャイムが鳴り終わると同時に、教室に入る。
否、入ったと思ったが・・・頭に衝撃を食らって、教室の外によろけた。
ちぃ、これで遅刻十三回目だぜ。
ガラスに反射した僕の頭を見ると、白い粉がきれいな楕円型で付いていた。
そして教室に耳を傾けると、大爆笑しているクラスメイトたち。
どうやら、黒板消し落としをくらってしまったらしい。
くそ、福井か・・・っ!
よろけながら、教室に入る。
すると、後ろから襟を掴まれる。
「おはようございますっ!」
「お早くねぇだろ、お前っ!」
見事なシンクロ。
俺が入った瞬間、チョップが後頭部に見舞われた。




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