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アラスジ

『宣戦布告だ、諸侯よ。』

哨戒戦が始まった時、既に火蓋は切られていた。
呑気に日常を過ごす彼らに休息は与えられないのか。
突如降り立つ金髪の美少女。
世界を託された七人。
電子世界で始まる第三次世界大戦を目撃せよ。


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序章

その壱


男は立つ。
大地に二本の足を並べ、眼下の数字の羅列で象られた巨大都市を一瞥する。
丘の上の豪邸から見下ろすネオンの海は、かつて男が手に入れたかった輝きが無い。
しかしまるで巨大な現代美術のような風格がある。
携帯電話を取り出すと特定の番号に自動的に繋がった。ホットライン形式の直通回路である。
『九代目が息を引き取りました。』
男は言う。バリトンの声。相手は息を飲んだ後、会話を続ける。
『ブラックプロジェクトの理事権は君に移った。』嗄れ声が受話器からもれる。
『存分に行使してくれたまえ。』
『ありがとうございます、プレジデント。』
男は返す。
その顔からは感情は読み取れない。悲しんでいるのか、喜んでいるのか。
サングラスの奥には深淵の闇が広がっていた。
通信が途絶える。
男は携帯電話を仕舞った後、煙草を取り出す。電子式が一般的となった今、シガレットを吹かすのは彼だけだろう。
もう一度、景色を見下ろす。
やはり表情は見えない。
後ろを向く。と、其処には少女が一人。
白髪の長い美しい髪に細い身体。
防護殻に収まっているとはいえ、屋外に出てはいけないと感じさせるような脆い少女だった。
硝子の細工のよう。
「家にお帰り、ニキータ。」
男が口を開く。
すると少女は微笑んで、彼の胸元に駆け込む。
慌てながらも彼女を抱きかかえる両手の一方には銃器が握られていた。
銃口が血塗られている。硝煙の匂いがまだ立ち込める。
「行こうか。」
男は少女を降ろすと歩き出す。
暗い丘の屋敷からは人がいなくなった。

その後男が再び丘を上ることはなかった。




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