戻る
『ニキータ』に戻る
[その壱] | [その弐] | [その参] | [その四]
序章
その参
昼には来訪者の話で食堂は一杯だった。
枚方以外にも見ていた人がこれ程いるということはどの教師の授業もつまらないことを暗に示している。
油が浮かぶ醤油ベースのスープと共に麺を食しながらカフェテリアを見ていると隣に誰かが座った。
「あんま我らがアイドル、京ちゃんをいじめるな、親友よ。」
大柄な体育体型の男は言う。
「小柄なボディ、童顔、小さい胸!あれで教師とか・・・反則過ぎるゥ!。」
「・・・ジョジョ化してるぞ、悪友よ。劇画じゃねえし。お前のロリコントークはいいから。」
ため息をつく。
確かに彼女の幼い容姿を除いても、彼女は人気者だ。
「しかし剣道部主将で成績優秀の文武両道な西神君も、ロリコンでなければモテるのに。」
枚方は言う。
顔も悪くないし、鍛えた体が眩しい彼がモテないのは単にロリコンであるからと容易に推測できる。
「否。剣道部である以上それだけではモテない。よっぽどツラが良くないと。。」
残念そうに西神智人はいう。
「どうして?。」
枚方が聞くと肩を上げながら言う。
「臭いからさ、防具のせいで。」
その理由を聞くと、ああ、と納得する。
「剣道部の手が臭い、て女子の反感を買ってるぜ。」
枚方は言う。籠手が臭いのは手を洗わないからだと悪友は言う。
「尾鷲直哉は手もイケメンだぜ。」
冗談を飛ばす智人。
尾鷲直哉は剣道部副将で見た目で生徒会副会長の評を集めたと噂される美男子だ。
「イケスメルか?。」
「イケスメル!。」
二人は吹き出す。
周りの目を気にしない二人は次に金髪の来訪者の話で盛り上がる。
「高槻五月というらしい。」
智人が神妙に言う。
もう既に本名が彼の耳に届くとは、剣道部主将とは太いパイプラインをもっているらしい。
感嘆。
「五月ちゃん、ね。梅雨だな。」
後ろで声がする。
振り返ると黒渕の眼鏡をかけた男子生徒が一人。
その生徒の名は葛城秀弥、智人の級友である。
「おう、イデア。耳がいいな。」
智人が言う。秀弥から発展したその渾名は仰々しい。
定理の海と同じ渾名を持つ男、それが葛城秀弥だった。
秀弥は眼鏡を外す。
「なにも君だけがパイプラインをもってるわけじゃないんだよ。」
そういいながら、枚方の隣に座る。
ポケットに手を差し込むと、薄いデバイスを取り出す。
指を触れて起動すると、即座にネットワークに接続した。
「高槻五月、十五才。日系アメリア人。アメリア特務機関所属。階級は大尉。」
指でなぞりながら言う。ため息をつく。
「先程の着地の際に露見した素顔からもう既にこれだけの情報が裏では書き込まれてる。情報法が機能していない証拠さ。。」
秀弥は云う。「高槻さんは知らないだろうな。」
「秀弥、その情報の確実性は?。」
枚方が問う。
信憑性の問題が生じるに違いないと観察した上での指摘だ。
「真実である確率は残念ながら99.9%だ。なんせ俺が直接裏をとったからな。。」
秀弥が裏をとったなら確実、か。
誰もが納得する理由である。
「アメリア特務機関に直接侵入したのさ。ダミーが流れてない限りは保証できるよ。」
「ーーー!?。」枚方と西神は驚く。
「さっきのミヤタンの授業中に降りてきたじゃないか、彼女。その三分後には一次防衛ラインを突破していた。。」
唖然となるばかりである。あの授業中に秀弥は外国の特務機関にダイヴしていたのか。
「第五次防衛ラインを突破し、向こうのヲルタコンピュータに侵入した。0と1しか使えなくて苦労したよ。」
逆に二本の指しか使わなくてよかったけどな、と笑う秀弥。
「二次を越えると57進法なんて見たことの無いファイアウォール構造。それらを越えると漸くデータベースに接続できる。」
秀弥は一気に捲し立てる。聞いてるこちらとしてはギークの話は判らないが、凄いのは解る。
すると背後に気配を感じた。
振り向くと、高槻五月が立っていた。
両手を腰に当てながら、
「アタシ抜きでアタシの話をするとはいい度胸じゃない。」
と高慢な態度で言い放った。
フリルのついたスカートから覗く黒いレギンス、白いTシャツ、先程とは違う二つに結わた髪。
それら全てが彼女の性格を現していた。
「見せなさい。」
そう言って、秀弥からデバイスを奪い取る。
そこには彼女の顔のアップが映し出されていた。
それを一瞥すると、「最悪!。」と秀弥をひっぱたく。
関心を寄せる周囲に同化した枚方と西神は、他人のフリをする。
「面白いものが見れそうだな。」
そう言って二人に近づいてきたのは、柏原亜理沙である。
秀弥の女房と噂される男勝りな女子で、5組唯一の茶髪娘であり、本人曰く親に染められたらしい。どんな親だよ。
「秀弥が転校生をナンパしてんのさ。」西神は言いながら笑う。
「ナンパァ?。」亜理沙は驚いて声をあげる。
それは周囲を静寂にさせ、声は通った。
五月と秀弥はどちらも「へ?。」という呆けた顔をする。
直後、平手が智人と秀弥の頬に入った。同時に鳴る音は反響した。
手をあげたのは亜理沙と五月である。
「信じられない、ひー君!。」
そう言いながら亜理沙は秀弥を平手打ちにする。
ぱちん、ぱちんという音に驚き観衆が集まってくる。
中には「夫婦喧嘩か?。」と茶化しに来る奴もいた。
秀弥と亜理沙の熱愛は有名なのだ。
一方隣が修羅場と化す中、五月は上げた手が下ろす。
「ば、バカじゃないの!。」
そう言いながら二三発殴ると頬を赤らめながら歩いてく。
秀弥は亜理沙の誤解を解こうと必死になっていた。
ーーーそんな他愛の無い日々が続くのもあと数日と分かっていたら。
前へ
次へ
[その壱] | [その弐] | [その参] | [その四]
All copy right to teufelkonig/naga@r25l23plus.
See here for blog:://R:25L:23