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第一章:セクター29の発端
その参
市民プールは何故かオヤジで一杯だった。ガン萎え。
どうやら入り口で見た女子高生の大群はエアロビに行ったらしい。
・・・・・・どおりで加齢臭がロビーにまで漂ってたわけだ!
そのオヤジが蔓延るプールサイドに葛城秀弥の姿があった。
横にビキニ姿の亜理沙が見える。
仲直りしたのだろうか。それこそ下衆の勘繰りだろうけど。
「やぁ、イデア。」そう声をかける。
だが彼は気づかないのかデバイスを見たまんまである。
亜理沙はやれやれという手振りをしてから隣の彼氏をつつく。
秀弥はそれで漸く枚方の存在に気づいた。「ああ、枚方君。暑いね」
そういったきり、一旦はあげた頭をまた垂れる。
呆れた様子の彼女を見もせず、画面上の鍵盤を激しく打鍵した。
「最近、これっきりなのよね。」そう彼女は言う。
「仕事なのさ、仕方ないだろ?」秀弥は言った。「これで食ってるのさ。」
画面をこちらに向ける。
対反射加工がされた液晶の中央にはアバターが一人。
その周りに広がっているのはリアルな描写の街並みである。どことなく西洋風だ。
「僕は孤児だからね。里親はいるが迷惑をかけたくないし。」彼は言う。
「この疑似世界《D- Techno World》」秀弥は言う。
「通称DTWはインダム社が運営するセカンドライフサービスだ。その最大の特徴は換金率。」
彼は自信の分身を操作し、金融庁という場所に接続する。
其処には金融取引所によく見られる大きな画面が広がる。
世界中の通貨取引状況が表示されている。
「ディードル、D2と呼ばれる通貨は1D2=1$という高額だ。」枚方に言う。
「今や世界で最も価値がある通貨は人民元だが、経済の多くはまだドルで取引されている。」
目を輝かせる。「僕の年収は一千万D2、日本円で十億だ!」秀弥は興奮気味に言う。
「もう一高校生が億を稼げる時代なのさ。」そう言うと彼は画面に目を戻す。
亜理沙はそんな彼について諦めているようだ。
「イデアはほっといて遊ぼうぜ、あっちゃん」
「ん。いいよ。私は秀弥の隣がいいから。」
・・・こ、断られた!
どうやら彼らの中はとっくに修繕しているらしかった。
「ん?」
枚方はプールで一人遊ぶ少女に眼が止まった。
太陽光を浴びて光る銀髪。それだけが周りと彼女を区別していた。
「独り?」近くに親らしき人影は見えない。
小学生のようだが親は見ていないのだろうか。
・・・なんとなく気になった。
「よ、親御さんは?」気がついたら話しかけていた。
「ん?」少女は周りを見回してから彼女が話しかけられてることを確認する。
「お兄さん、なんぱ?」枚方は狼狽える。「ぐっ・・・!」
・・・なんだこれじゃあ智人の事言えないじゃん!
「お嬢ちゃん、名前は?」
・・・なんぱじゃねえぞ!?
「ん?・・・・・・私?」
そこで一瞬ためらって。
「私ね、ニキータって言うんだ」
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